猫沢シネマ


ミュージシャン、エッセイスト、映画解説者、グラフィティーライター。
2002年よりパリ在住。 著書に "パリ季記~フランスでひとり+1匹暮らし~" (地球丸)がある。秋には新刊を出版予定。
www.necozawa.com
私がまだ東京にいて、パリでの生活を夢見ていた頃、‘パリに住めたらぜひやってみたいこと’のトップに「‘シネマテーク・フランセーズ’に通うこと」が挙げられていた。
フランスが誇る、映画の殿堂‘シネマテーク・フランセーズ’(国立映画資料館)は、1936年、初代館長のアンリ・ラングロワをはじめ、ジョルジュ・フランジュ、ポール=オーギュスト アルレなどによって創立された。保存されているフィルム4万点、1万5千点以上ものカメラや機材、1万点もの衣装、セットなど、映画にまつわるありとあらゆるオブジェが保管されている。昨年までシャイヨー宮内と、10区、メトロ・グランブルヴァール駅そばの2カ所に別れていたのが、14番線のベルシー駅に程近い場所へ移転し、6000平米という広々としたスペースに生まれかわった。このシネマテークの特徴は、商業的成果をまったく問わず、その資質や文化的意義で映画を集めていること。この価値基準で収集された世界中の映画を、テーマを設けて上映することだ。と、紹介すると「映画マニアのための映画館なのでは?」と、敷居が高いように思われるかもしれないけれど、ぜんぜんそんなことはありません。料金はビジター大人1回、どの映画でも6ユーロと安く、日本ではなかなか見ることができない昔の映画やメジャーではない秀作が上映されている。

その新しいシネマテークへ、先日ウィリアム・クライン監督の‘Qui etes-vous? Polly Magoo'(ポリー・マグー、お前は誰だ?)を見に出かけた。1999年に日本でもリバイバル上映されたので、このタイトルに覚えがある方も多いと思う。ウィリアム・クラインは1928年N.Y生まれのアメリカ人で、第二次世界大戦中、陸軍記者としてフランスに在住。除隊後もパリに留まり、’55年に「VOGUE」誌と契約、その後ファッション・カメラマンとして華々しい活躍を見せる。写真と平行して映画も撮り始めた彼は、この‘ポリー・マグー’で、ジャン・ヴィゴ賞を受賞した。映画の舞台は60年代のファッション業界。流行の移ろいやすい世界を、アメリカからやってきた売れっ子モデル、ポリーに投影したこの作品は、当時のパリの空気感、そしてクライン自身が感じていたであろう‘パリの外国人’という疎外感や孤独をスタイリッシュに表現している。おしゃれなグラフィックと映像、そしてフランス人のキャラクターを誇張したギャグ満載の、‘哲学的にも見え、お馬鹿映画にも見える’という、離れ業をやってのけている!劇中、ポリーがTV番組‘お前は誰だ?’に出演することになり、モデルという虚構の存在を皆が暴きだそうと必死になるのだけれど、ポリーを探ることで「じゃあ、そんな自分は一体誰?」という、自問自答につながって行くのが面白い。そして、そんな映画を見ている「パリの日本人である私は一体誰?」と、最後は自分への問いかけになってしまう。

パリは昔から間口が広く、さまざまな文化や人種を受け入れて成熟してきた街だ。けれど、すぐさまそれが‘本当の受け入れ’にはならない。もしかしたら、何年住んでもパリはクールな顔をして「居場所は自分で見つけることだね」と、つぶやくのかもしれない。移り変わる時代やモードの背後で、凛として変わらずあり続けるパリ。その度量の深さと、現在そこで暮らすちっぽけな日本人の私。きっと、見る人すべてが‘私は誰?’と、自分の存在について考えてしまうことだろう。クラインの作品は、度々このシネマテークで上映しているので、館内にあるプログラムをもらってチェックしてみよう。ちなみに、映画の他にも展覧会などが常時催されていて、7月31日まではスペインの巨匠、ペドロ・アルモドバルの映画にまつわる展示物などを見ることができる。館内のレストランもオープンに向けて急ピッチで工事中。ますます‘居心地のよい、映画の殿堂’へと進化するシネマテークに乞うご期待。


↑ ペドロ・アルモドバルの映画にまつわる展覧会が開催中です。

↑ 館内のプログラム


LA CINEMATHEQUE FRANCAISE-MUSEE DU CINEMA
51 rue de Bercy 75012 Paris
01.71.19.33.33
www.cinematheque.fr

メトロ 14番線・6番線 Bercy駅下車
6ユーロ / 26歳以下割引 5ユーロ
バックナンバー