わたくし事で恐縮だが、8月半ばをもって一度パリを離れることになった。一度4年間のパリ生活を振り返るためにも東京へ戻ってみようと思い立ったからだった。ちなみにしばらく東京とパリを行き来するので、この連載は続きます。ご安心を。帰国準備が進むにつれ、今まで散々文句を言ってきたパリが急に私の中でふくらみはじめ、寂しさが日増しにつのってきたころ、この映画を見た。きっかけは、猫沢シネマN゜3で紹介した‘マリー・アントワネット’をこき下ろしたフランス人の友だち。「どうせ見るなら‘Paris je t'aime'を見なよ。」映画情報誌‘パリ・スコープ’に目を落として、彼はそう言った。前回は‘フランス人が面白くないという映画’を紹介したわけだから、今回はぜひ‘フランス人が面白いという映画’を紹介してみたくなった。とにかくフランス人が面白いにしろ、面白くないにしろ、批評する映画には‘必ず見どころがある’と私は思っている。しかしなんとタイムリー。今の気分にこれほど合うタイトルの映画があるだろうか!そしてタイトルだけでなく、悔しいけれど彼が言った通りこの映画は面白く、パリを生きるすべての人たちへの贈り物みたいな映画だった。

第一話、舞台は18区のモンマルトルから始まる。現代のエリック・サティと称されたゴンザレスの優しいピアノの調べが、パリらしい坂の町並みに流れる。あるムッシュが前後の車をぼんぼん押しやって、無理やり路上に駐車しようとしている。その横を通りがかった魅力的な女性が突然倒れて…。パリを愛する20人の映画監督が、18話からなるパリのさまざまなカルチエ(界隈)をテーマに5分程度の短い、けれど‘パリ人の人生’が凝縮した、カフェ・ノワールのような味わい深い物語を展開する。 そこには、パリを知る人ならば首がもげてしまいそうなほど「うんうん」とうなずける、リアルな人々のやりとりが網羅されている。そして、各話に登場するカルチエとストーリーは登場人物の生活の背景、人種的な問題などと見事にリンクしている。たとえば第4話、ガス・ヴァン・サント監督による‘マレ’は、ゲイ・スポットとしても有名な4区のマレ地区で、ある美しいゲイの青年の恋が生まれる瞬間を描いていたり。その他、黒人移民の切ない人生、息子を失ったある母親の一夜の夢物語、観光客が初めて遭遇する意地悪なパリ、目の見えない青年の走り抜けるような恋etc…。
 |
|
 |
|
 |
| ↑パリの美しい風景も見どころ。 |
|
↑盲目の青年と、女優を目指す少女がパリで出会い・・・。 |
|
↑メトロでよく見かけるカップルの小競り合いに観光客がまきこまれ・・・。
|
気がつけば、パリへの想いで胸がいっぱいになり、涙が溢れて止めることができなかった。もしもあなたが、どうやってパリ人が悲しみ、喜び、恋を見つけるのかを知りたければ、この映画を見ればいい。そして18話のパリ物語を見た後、きっとあなたの中で19話目の映画がはじまるだろう。それは、まさにあなただけの‘Paris je t'aime’。きっと、雑誌の中では見つからない‘本当のパリ’への入り口となるはずだ。
‘
Paris je t'aime'
2006年・フランス作品
監督:ガス・ヴァン・サント、
トム・ティクヴァ、
ジョエル&イーサン・コーエン
諏訪敦彦/他
出演:ナタリー・ポートマン、
ジュリエット・ビノシュ
ジェラール・ドパルデュー
ウィレム・デフォー/他
多数の有名監督、俳優たちが、さりげなく登場するこの映画はきっと日本でもこれから公開になるはず。
パリで見たい方は急いで映画館へ!UCG、MK2系列映画館にて只今公開中。