猫沢シネマ


ミュージシャン、エッセイスト、映画解説者、グラフィティーライター。
2002年よりパリ在住。
著書に "パリ季記~フランスでひとり+1匹暮らし~" (地球丸)がある。
この冬、新刊2冊が出版されました。詳しくは、コチラをご覧ください。
オフィシャルHP: Ou est mon chat?(www.necozawa.com)
Paris・Tokyo ファム・ファタールと2人の男

Tokyo-PM10:00。窓の外に広がるのは、パリではなかなか見ることのできないネオンの光る夜景だった。その光輝く街の喧騒は、最新式の二重サッシを横にスライドさせるだけですぐに届いてくるし、なんでもある東京と、24時間、自分が思う時間に人と会うこともできる便利なこの街にいることが楽しくて仕方がないはずだった。はずだったのに…
私はとても憂鬱だった。なんだかむしょうに寂しくて、誰かに会いたくて仕方がないのと同時に誰にも会いたくなかった。TVの画面には、フランソワ・トリュフォーの名作‘突然炎のごとく’(仏題・ジュールとジム)が静かに流れていた。私がこの作品を初めて見たのは、もうどのくらい前だったかはっきりしない。ひとつはっきりしていることは、パリに移り住む大分前、まだとても若いころだったということだけだ。
ジャンヌ・モロー扮するファム・ファタール(男を破滅させる女)カトリーヌを中心に、彼女の奔放すぎる魅力に人生を翻弄される2人の男、ジュールとジム。くるくると猫の目のように変わる彼女の男たちへの想いは、腹が立つほど勝手気ままで「これではまるで‘戦争’という名目で人を殺せば罪になることがないのと同じくらい、‘恋愛を謳歌する’という名目ならば人を不幸に巻き込んでも致し方ない、と言っているのと同じじゃないの!」声に出して憤慨するのと同時に、‘これが恋愛のすべてなのだ。人間本来の姿なのだ’と口には決して出さずに強く思った。思ったなどいう生易しいものではなく、悟りに近いものだった。

 

劇中、3人がお芝居を見に行き、その感想を述べ合うシーンがある。 カトリーヌは言う。「主人公は自由を望み、人生を創造している。」と。ジュールは言う。「美徳のために悪徳を描いている。ひとりよがりだ!」と。まるで3人の行いを当人たちに告白、かつ懺悔させているかのような面白いシーン。わかっているのだ。カトリーヌもそして男たちも。自由と恋は、求めても果てのないことで、そこで得られる喜びには、同時に底なしの苦しみがつきまとう真実を。「あああ…」私は頭を抱えてのたうった。カトリーヌが素敵すぎて憎すぎて、人間そのものがうとましすぎる。人生の喜びを、底に溜まった澱とともに飲み干すような、最高にフランス的な偉大な物語。映画が終わった。そしてふと「パリは今、何時だろうか?」そう思った。TokyoとParis。2人の男の間を行ったり来たりする自分が、今、カトリーヌと同じ憂鬱と高揚を感じていることに気がつき、嬉しくて哀しくて、少し震えた。
'Jules et Jim'

1961年・フランス作品
監督:Francois Truffaut
原作:Henri-Pierre Roche
出演:Jeanne Moreau/Oskar Werner/Henri Serre

※各レンタルビデオ店で、この作品を借りることが
可能ですが、これはお店によって作品の有無が
異なりますのであらかじめご了承ください。




‘Week-end a Paris’-ウィーク・エンド・ア・パリ-
   Le Journal d'EMI NECOZAWA 2002~2003
      12月4日発売/ 白夜書房 ¥1,800(税別)

オフィシャルHP‘Ou est mon chat?’からパリ暮らしを始めた2002年~2003年の日記を抜粋。すったもんだのパリ生活から見えてくる、文化の違い、面白さ、そしてフランス語を学ぶということ。30歳を過ぎて単身+ピキ(猫)とともに、パリへ移住した猫沢エミの、リアルな奮闘記。これが猫沢エミ的パリ視線の原点です!ためになる情報、ガイドも満載。


‘パリ通信’-Ma vie et le cinema a Paris-
     12月15日発売/ 主婦の友社 ¥1,300(税別)

ゴダールの未公開映画など、ヒップな映画配給会社・ザジフィルムズのHPで、約2年間に渡って連載された‘RER-猫沢エミのパリ通信’に加筆したものをベースに、書き下ろしをたっぷり加えたパリとヨーロッパの生きた映画&カルチャーエッセイ。



ご購入はこちらからどうぞ。
● 楽天ブックス‘猫沢エミ’
● Amazon.co.jp‘猫沢エミ’
バックナンバー