映画のスペシャリスト猫沢エミと、ただの映画大好き長谷川たかこがお届けするシネマ往復書簡。
ふたりの間で映画をテーマにどんな会話が交わされるのか?
2007/04/01
たかこさんお元気ですか?
日本はようやっと春本番になってきました。友達からお花見のお知らせが舞い込む毎日。私もあと1ヶ月で、長い日本滞在を終えパリに戻ります。パリのお花見も楽しみ。
さて、先日フランスの若手映画監督を代表するフランソワ・オゾンの‘ふたりの5つの分かれ路’を見ました。物語は、ある1組のカップル、ジルとマリオンが弁護士を交えて離婚調停の審議をするシーンから始まります。そこから映画は、ふたりが恋に落ちた瞬間に向かって時間をさかのぼってゆくのです。タイトルにもある通り、2人の愛が冷めていく原因となった5つのターニング・ポイントには、恋愛をしたことのある人ならば、誰しも似たような経験があるであろう男と女の根本的なギャップが象徴的に描かれていて非常に面白い。特に、ジルとマリオンの間にできた息子ニコラが産まれたとき、その現実と向き合うことができない新パパのジルが逃げるシーン。女性側からすれば「なんてこと!」となるだろうけど、なんとなくジルの気持ちがわからないでもない。しかしこうして1つの恋を客観的に見ると、どんなに完璧に始まったと思うような恋愛も、些細なことで冷めてゆくものなのだなあということ。もちろん、ジルとマリオンには5つの決定的な別れの要因があったにせよ、見方を変えれば乗り越えられないものではなかったようにも思う。どちらにしろ、男女の‘恋愛’のうち‘恋’の部分は、どのカップルでも長い年月を経ると自然と失われていったり、どきどき感が家族的な深い愛へ移行するものだけど、そのターニングポイントを見失うと、家族的な愛情へうまく移行することさえも難しくなってしまう。そういった恋が愛へ移行する際の様々な問題や現実を、残酷なほどリアルにオゾンは映像化してしまったなあと私は感じました。
ところで、ついこの間、諏訪敦彦監督のフランス=日本映画‘不完全なふたり’を試写会で見たのですが、ここでの主役もマリオンを演じたヴァレリア=ブルーニ・デテスキでした。彼女は‘別れゆく女’を演じるのがうまい。ストーリーは、外から見れば理想的に思える1組のカップルが、漂う破局の濃い空気感の中で互いの存在意義を探してゆくというもの。‘ふたりの~’とは、ある意味双子の魂ともいえる作品じゃないかと感じました。あ、もうひとつ思い出した。日本で今春公開する‘カンバセーションズ’という映画も、ある大人のカップルの微妙な恋愛のやりとりを面白く表現した力作なのですが、主題歌を歌っているのがカーラ・ブルーニ。彼女はヴァレリアの妹です。こうゆう繋がりを感じると「今、私が見るべき映画は大人の恋愛について、なのかも。」なんて思ってしまいますね。
ふたりの5つの分かれ路(2004年フランス/イタリア作品)
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:ヴァレリア=ブルーニ・デテスキ、ステファン・フレイス
*この作品は2007年3月現在ビデオ店でレンタルが可能です。
不完全なふたり(2005年フランス=日本作品)
監督・構成:諏訪敦彦
出演:ヴァレリア=ブルーニ・デテスキ、ブリュノ・トデスキーニ
*2007年初夏、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
カンバセーションズ(2005年アメリカ作品)
監督:ハンス・カノーザ
出演:ヘレナ・ボナム=カーター、アーロン・エッカート
*2007年春、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー