猫沢シネマ

映画のスペシャリスト猫沢エミと、ただの映画大好き長谷川たかこがお届けするシネマ往復書簡。
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たかこ&猫沢のシネマ往復書簡 N゜2
エミさん、こんにちは。もうすぐパリですね?こっちは冬から一気に夏の、おかしな気候、週末には30度まで上がったとか。「とか」というのは、スキーに行っていて日曜日の夜に戻ったからです。駅にタンクトップとか夏服が溢れていて、わたしのダウンジャケットの中はサウナみたいでした。

エミさんが書かれていた「ふたりの5つの別れ道」、私もDVD借りて見ました。オゾンは公開になれば欠かさず見ていたのに、なぜかこの作品は逃していました。
最初のシーンがショッキング。事務的な声で離婚状を読み上げる弁護士の事務所を出た二人は、味も素っ気もないビジネスホテルの部屋に直行し、セックスしようとする。 フランソワ・オゾン ふたりの5つの分かれ路 とても後味の悪い映画ではないかと心配する間もなく、2人の時間が逆周りに巻き戻されていきます。出産のとき逃げ出してしまうジル、結婚式の夜、マリオンがうんとセクシーに演出してバスルームから出てくるとグーグー寝ているジル。恋人とバカンスに来ているジルが、一人旅のマリオンに惹かれてしまうという2人の出会い・・・カッコつけてるけど(結構いい男ですよね)脆くて、卑怯なところもあるジルの実像と、そのジルに少しずつ距離を感じていくマリオン。女の目で見ていると「ひどい男!」と、マリオンが被害者のように感じられてしまうけど、次第に彼女が、何も言わないということに気づきます。恨めしそうな表情をするだけ。エミさんも書かれていたように、ヴァレリア=ブルーニ・デテスキという女性は、内面で耐える、という表情が上手い。だから別れる女がはまるんですね。2人の人間が別れる場合、片方だけが悪いということはありえないから、この「逃げる vs 黙る」2人は溝をどんどん大きくしていき、ついに破綻。それでも未練があるジルは、離婚が成立したあとホテルに誘う、という最初のシーンになるわけですが、身体の接触ではもう埋められない距離ができていて、さらに別れを苦くするはめになります。

DVDには普通バージョンのボーナスがついていました:つまり、順序通りに出会いから別れまでを描いたバージョンです。全く同じシーンを、時間の流れ通りに繋ぎ合わせているのに、これが不思議と全然つまらない。どうして?・・・私たちは概して、別れるときになって初めて過去を振り返るので、逆周りの語られ方が心の形にはまるのかもしれません。
オゾンの才能を再認識させる、記憶に長く残りそうな作品でした。
ちなみにフランス人の反応は賛否別れていて、「あんな悲しい話、どこがいいの?あんたたち、マゾじゃない!」みたいな意見も少なくなかったようです。
ふたりの5つの分かれ路(2004年フランス/イタリア作品)
 監督・脚本:フランソワ・オゾン
 出演:ヴァレリア=ブルーニ・デテスキ、ステファン・フレイス
*逆バージョン付きDVDはフランスのアマゾンより購入可能です。

長谷川たかこ プロフィール
パリ在住20年の文筆家。版権エージェント・翻訳家を経て出版プロダクションを立ち上げ、フランスのバンド・デシネ(漫画)を日本に紹介。漫画家の長谷川町子は伯母にあたる。
長谷川たかこ プロフィール
猫沢エミ プロフィール
ミュージシャン、エッセイスト、映画解説者、グラフィティーライター。2002年よりパリ在住。 著書に "パリ季記~フランスでひとり+1匹暮らし~" (地球丸)がある。
オフィシャルHP: Ou est mon chat?(www.necozawa.com)
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