エミさん、こんにちは。今夜は雨です。アナイスがベッドにもぐりこんできて、肩に頭を摺り寄せて眠るようになると、本格的に秋になったのを感じます。エミさんの猫は元気ですか?

9月、10月、沢山の映画が封切りになったなかで、これは一番印象に残った作品、『Ceux qui restent』(残る者たち)。
2人は病院の癌病棟で出会います。5年越しの癌に苦しむ妻を毎日見舞っているベルトラン(ヴァンサン・ランドン)。彼女、ロランス(エマニュエル・ドゥヴォス)は恋人が大腸癌の手術を受けるところ。自動販売機のコーヒーを一緒に飲み、メトロの駅まで一緒に帰ります。そして翌日も、その翌日も・・・。2人は、その一こまを毎日の“明かり”にするようになります。慰め?それとも恋・・・?
ドイツ語教師のベルトランの日常は殺伐としています。空腹を満たすためだけの食事、妻の連れ子とはうまく行かず、歩み寄ろうとするほど溝を深めてしまう。繊細な心を持つのに表現が不器用な中年男、といったらヴァンサン・ランドンの右に出る俳優はいません。
一方の彼女はエマニュエル・ドゥヴォス。笑っているのか泣いているのかわからないような表情が、病気の恋人を持ち、ベルトランと出会った悲喜を映し出すます。
エマニュエル・ドゥヴォスが知られるのは2002年3月。200万人の視聴者がテレビの前でセザールの最優秀女優賞の発表を待っていました。みんなの期待では、フランスのアイドル、アメリーちゃん、オードレイ・トゥトゥ。ところが、ステージに上ったのは『Sur mes levres』(唇の上)の主演エマニュエル・ドゥヴォスでした。授賞式の後、恒例のフーケツでのカクテルで彼女はブーイングを受けるハメになります。
映画評論を書く友人がいっていたっけ:エマニュエル・ドゥヴォスや
ヴァレリア・ブルニ・テデスキって主役をはれるような美人ではないのに、動いてしゃべるとすごく存在感がある。同感。彼女たちは、映画の中に登場する「若いヒロイン」の定番を崩しました。『Roi et Reine』(王と王妃)でエマニュエル・ドゥヴォスが演じた、魅力はあるけど時々引っぱたきたくなるような女性とか。ひとつの形容詞では言い表せない曖昧なキャラは、リアルで心に引っかかり、再度観て自分と重ね合わせたくなります。

さて『残る者たち』、監督はベルトランのお姉さんを演じている、アンヌ・ル リー(写真右端)、女優でありシナリオも書き監督もする映画人間です。
病気の家族や恋人を抱える者の、人に言えない悩みにさらりと切り込み、答えが出ない人間関係を繊細に描いた作品、11月にパリに来たとき、是非観てください。
Ceux qui restent 残る者たち
2007年フランス作品
監督/アンヌ・ル リー
出演/ヴァンサン・ランドン、エマニュエル・ドゥヴォス
長谷川たかこ プロフィール
パリ在住20年の文筆家。版権エージェント・翻訳家を経て出版プロダクションを立ち上げ、フランスのバンド・デシネ(漫画)を日本に紹介。漫画家の長谷川町子は伯母にあたる。 |
 |
猫沢エミ プロフィール
|
 |