猫沢シネマ

映画のスペシャリスト猫沢エミと、ただの映画大好き長谷川たかこがお届けするシネマ往復書簡。
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たかこ&猫沢のシネマ往復書簡

エミさん、カンヌで監督賞を取ったこの映画「潜水服は蝶の夢を見る」、フランスで公開になったのは6月です。ELLEの編集長が脳卒中で倒れ、ロックドイン・シンドロームになったことは当時メディアを騒がせ、まばたきだけで書き上げた著作が出たときも話題になったので、是非観たいと思ったんですが、夫や友達がそろって「重そう」と尻込みし、ひとりで観に行ってひとりで落ち込むのもなあ・・・と、グズグズしていました。エミさんのテキストを読んで、即、映画館に駆けつけようとしたけど、パリではもう上映が終わっていて、日本からDVDを持ってきていただけたおかげでやっと観れたというわけです。
パラノイド・パーク マチュー・アマルリックが凄い。声だけで(動けないから)、自信家で皮肉屋で情愛深いインテリ(つまり、フランスのプレス出版界にいるタイプ)のジャン・ドーを、蘇る思い出と、向かい合う絶望を見事に演じます。昔風の気質に息子への愛情や誇りを閉じ込めたお父さんもすごくいい。この俳優、もしかして?と思ったら、果たしてマックス・フォンシドー。「エクソシスト」の、悪魔を追い出す神父役が私には一番印象に残っています。一緒にルルドに行く愛人は『レディ・チャタレイ』のマリナ・ハンズ。あのシーンリアルですね。
そしてエミさんも書いている映像の美しさ。確かリベラシオンの批評で「装飾的だ」というのがありましたが、そうは感じなかった。監督のジュリアン・シュナベルは画家でもあるんですね。ジャン・ドーの左目の、限られた視野に入る世界、という撮り方も効果的。 本が出版されてから間もなくジャン・ドーは他界しますが、この本を著すことが彼を生に繋ぎ止めていたんでしょうか。

さて最近観た映画の中で、予想外に(?)良かったのがガス・ヴァンサントの『パラノイド・パーク』。興味はスケートボードだけ、みたいなアレックスは16歳。ある日、あまり治安のよくないスケート場、パラノイッド・パークに出かけ、全く意図せず、警備員を殺してしまいます。警察が高校に事情聴取にやってきて、スケーターたちに質問しますが、アレックスは言わないことに決めます。でも一人で抱えているのも重く、「お父さんだけには話そう」と思う。アレックスの両親は別居していて、間もなく離婚が成立するところ。でも結局、お父さんにも話しません。
といっても、アレックスの罪悪感がテーマではなく、アレックスが、彼を取り巻く世界との間に感じている距離感が主題になっています。紗がかかったような撮り方、アレックスの無表情の上でじっと止まるカメラ、親との必要最低限の接触・・・彼を取り巻く“見えない壁”をガス・ヴァンサントは巧みに描写しています。
日本でもそうかもしれないけど、フランスで、この監督は好き・嫌いがはっきり分かれます。私が「パラノ・・・」と言いかけるだけで拒絶反応を示す人、2回立て続けに観たという人・・・

パラノイド・パーク
実は『エレファント』は退屈したけど、『パラノイド・・・』を観ようと思ったのは、17歳になった息子に薦められたから。彼だって、最近でこそ色々話すようになったけど、パソコンゲームにだけ夢中で、それ以外は無関心か、うっとうしい、という時代がありました。部屋はゴミ箱みたいな散らかり方。一度、精神分析家の知り合いに相談したら、「彼の頭の中は、その部屋みたいな状態なんだ。いろんなものがゴチャゴチャしていて混沌としている」。
自分だって通り過ぎた時期なのに、その時何を感じていたのかは思い出せない。それだけに興味深い映画でした。
パラノイド・パーク Paranoid Park
2007年フランス ・アメリカ作品
監督&脚本/ガス・ヴァン・サント
撮影/クリストファー・ドイル
出演/ゲイブ・ニーヴンス、テイラー・モムセン、ジェイク・ミラー
長谷川たかこ プロフィール
パリ在住20年の文筆家。版権エージェント・翻訳家を経て出版プロダクションを立ち上げ、フランスのバンド・デシネ(漫画)を日本に紹介。漫画家の長谷川町子は伯母にあたる。
長谷川たかこ プロフィール
猫沢エミ プロフィール
ミュージシャン、エッセイスト、映画解説者、グラフィティーライター。2002年よりパリ在住。 著書に "パリ季記~フランスでひとり+1匹暮らし~" (地球丸)がある。
オフィシャルHP: Ou est mon chat?(www.necozawa.com)
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