この映画(原題:『Ne touchez pas a la hache 斧に触るな』)は、フランスでは1年前、2007年3月末に封切りになりました。『美しき諍い女』と並んでリヴェットの最高作品といわれ、気になっていたのに見逃してしまったので、いい機会でした。
原作『ランジェ公爵夫人』は、読書家の友人に言わせると、バルザックの作品の中で最高、だそうです。
静的な画像で、主人公の恋の苦悩が浮き彫りになる、大人の映画ですね。王政復古下の貴族社会を背景に、ランジェ公爵夫人(アントワネット)とモンリヴォーの、恋の主導権争いの物語。
前半はサロンの華としてちやほやされるアントワネットがイニシアティヴを取り、惹きつけておきながら突き放し、艶かしい姿態を見せるのに、絶対身体を許そうとしません。
そういう関係ってとても官能的。モンリヴォーの指先がアントワネットの身体に触れただけで、見ているほうは電流が走ったように感じてしまう。洗練された貴族のコケットリーで、じらしにじらすアントワネット、寡黙で獣のように猪突猛進のモンリヴォー、対照的な2人の言葉はすれ違って、欲望の周りを堂々巡りします。そしてあるとき、役割が逆転。主導権はモンリヴォーの手に渡ります。アントワネットってマゾッ気があるんでしょうね。
バルザックはお金持ちになりたい、有名になりたいと、権力願望が強かった人で、女好きでも有名でした。でも現実は、借金取りに追われ、デブで醜男で思うように女にモテなかったとか。
『ランジェ公爵夫人』は、すごく惚れたのにモノに出来なかった実在の女性、キャストリー公爵夫人がモデルで、小説で彼女に復讐したかった、そうです。不器用で、重苦しく、平民のコンプレックスを持ったモンリヴォーは、もちろんバルザック自身。ギヨーム・ドパルデューが演じていることを知ったら喜ぶでしょう!
ジャンヌ・バリバールとドパルデュー、主役の2人ははまり役。アントワネットの伯母を演じるビュル・オジエもキラリと光ります。老いてもコケット。豊富な恋の経験から可愛い姪に忠告を与えますが「公爵夫人という立場を棒に振ってはダメよ。扶養手当をもらって愛人の世話になるなんて!」とか「男に(公爵に)別れる理由を与えてはダメ」というようなアドバイスは、実にフランス貴族社会ですね。
エミさんは『O嬢の物語』を引き合いに出しましたが、私は同じくヌーヴェル・ヴァーグのトリュフォーの『突然炎のごとく』に思い出しました。愛し合っているのにすれ違ってしまう2人。シンクロしなかった恋は、何年か後に修復しようとしても決して当時の炎は戻りません。そして消えない刻印を残す。モンリヴォーの友人のいうように「・・・忘れてしまえ。子供の頃に読んだ本のように・・・」なんて可能でしょうか?
ランジェ公爵夫人 (Ne touchez pas la hache)
2006年 フランス・イタリア作品
監督・脚本/ジャック・リヴェット
原作/オノレ・ド・バルザック
出演/ジャンヌ・バリバール、ギヨーム・ドパルデュー、ミッシェル・ピコリ
※日本での公開は、2008年4月5日(土)岩波ホール
他、順次全国ロードショー。
http://www.cetera.co.jp/Langeais/
長谷川たかこ プロフィール
パリ在住20年の文筆家。版権エージェント・翻訳家を経て出版プロダクションを立ち上げ、フランスのバンド・デシネ(漫画)を日本に紹介。漫画家の長谷川町子は伯母にあたる。 |
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猫沢エミ プロフィール
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