映画のスペシャリスト猫沢エミと、ただの映画大好き長谷川たかこがお届けするシネマ往復書簡。
ふたりの間で映画をテーマにどんな会話が交わされるのか?
2010/04/11
たかこさん、ものすごくご無沙汰してしまいました!前回の往復書簡の日付を見たら、なんと1月!気がつけば、あっという間に今年前半も終わりに近づいてしまったなんて、光陰矢のごとし、とはよく言ったものです。というのも、たかこさんもブログで触れてくださってましたが、約14年連れ添った愛猫ピキが3月の末に亡くなってしまい、最近やっと私の目の光も蘇ってきた…というような状況でした。連絡が途絶えていた間、たかこさんもスキーで骨折という大事件があったときき、互いに変化の多い年なのだろうかと思いを馳せてみたり。お加減はいかがでしょうか?
そんなわけで、すっかり間の開いてしまった往復書簡、気持ちも新たにまいりたいと思います!ピキが亡くなって、人生の中で一番凹んでいた時期も映画だけはよく見ていました。その中で、とても強い印象を残したのが、第61回カンヌ国際映画祭で並みいる強作を押しのけてパルムドールを受賞した‘Entre les murs-パリ20区、僕たちのクラス’でした。パリに20区に実在するフランソワーズ・ドルト中学校の生徒24人と、この映画の原作者、フランソワ・べゴドーが教師役として出ています。そこで繰り広げられる、パリの中学校の赤裸々な映画、と書いてしまえば、まったくその通りなのですが、そのリアリティ具合がはんぱじゃない。試写会場で配られたパンフレットを事前に見ていなければ、ドキュメンタリー映画だと思い込んだまま観終わっていただろうと思います。それほど、生徒たちの演技(というよりは、あれが彼らの普段の姿なのでは?と想像する)は、自然体で、その自然体から繰り出される教師への文句や自己主張、この年齢ならではの扱いづらい人間性などが画面いっぱいにありありと踊っているわけです。原作者のペゴドーは、19区の中学校で国語の教師を2年間務めていた経歴を持っているので、彼の演技もまた、経験にもとづいた説得力で満ちています。
ところで、20区という地区は、私がパリの初期4年間を過ごした思い出の地区でもあるのですが、さまざまな移民が多く住む、文化の入り混じった面白いところでした。一言で20区と言えども、わりと裕福な人々が住むカルチエもあり、大通りを一歩横道に入れば、所得の少ない人たちがわらわら住んでいるカルチエもあったりして。そんな地区での中学校の運営というのは、とても難しい仕事だと思うのですが、この地区に限らずフランスの学校と日本の学校で決定的に違うところは、宗教も習慣も文化も違う他民族の子供たちが集まっている点ではないかと思います。その、ただでさえ手ごわい、しかもつかみにくい年齢の子供たちの集団に、教師は体を張って挑まねばならない。教師は、神様でもなんでもなく、ひとりの人間として時にはむき出しで生徒に暴言を吐き、時には理解者としての情を見せる。映画の舞台となるのは、ほとんどが教室と学校内での限られた場所ですが、ここから垣間見えてくるのは、フランス社会のリアルな現状とそれに伴う問題そのものという、とても大きな視野でした。そこに私はこの映画の真価を見出した気がします。
と、ここから先のつっこんだ‘パリの中学校の実態’については、2人のお子さんを育てるたかこさんに、ぜひお聞きしたところ。きっと、区やカルチエが違えば、生徒や教師の雰囲気もかなり変わってくるのではないかしら。ところで劇中、アフリカ系移民の生徒・スレイマンが退学になるシーンが出てきますが、日本とはまったく違う‘退学’のシステムを始めて知って、驚きました。そのあたりのお話なども楽しみにしています。では、くれぐれもお体ご自愛ください!
Entre les murs-パリ20区、僕たちのクラス
2008年 フランス作品
監督/ローラン・カンテ
脚本/ローラン・カンテ、フランソワ・べゴドー「教室へ」(早川書房)
出演/フランソワ・べゴドーと24人の生徒たち
* 日本での公開は、2010年6月12日(土)より岩波ホール他、ロードショー。
http://class.eiga.com/