憎らしくて可愛い子供たち『パリ20区、僕たちのクラス』
Entre les murs

パリは7年ぶりの暑い夏、夏らしい夏です。7月に入ってから人口がかなり減って風通しよくなった感じ。バカンス7月組だけではなく、ヨーロッパや北アフリカからの移民の人たちもお国帰りしています。パリは人種のるつぼで、この映画の中学は決して例外ではありません。娘のクラスでも、両親ともにフランス人の子供は半分くらいです。

サブタイトルにもあるように映画の中学は20区にあり、ZEPに指定されています。ZEPとは教育優先地区の略語で、勉強の遅れや不登校の生徒-つまり親がフランス語をしゃべらなかったり、教育に無関心な移民の子供-が集まっている小中学。パリの公立学校のなんと32%が、このZEPに指定されています(地方都市は一桁)。レピュブリック(なんてパリの繁華街ですよね)に住んでいる友人が「クラスでフランス人はうちの娘だけ」というほど。

色々な人種やカルチャーが混在しているのはいいことだけど、困るのは勉強の遅れ。バカロレア受験のとき大きなハンディになるので、無理をして私立に入れたり、越境させる人が多く、ZEPとそうでない学校の格差は開くばかり。

担任の先生(フランスでは国語の先生が主任教師=担任になることが多い)フランソワは、人並みにしゃべれても読み書き苦手な生徒たちを、何とかレベルに近づけようと努力します。だけど身体だけは大人並で(女の子なんて日本の16歳くらいに見えません?)やる気のない子供たちに勉強させるのは並大抵じゃない。

反抗的な態度で授業の邪魔をする生徒、スレイマンの処分についても、彼は悩みます。退学処分にして何の解決になるのか。厄介者をほかの学校に押し付けることはできても、スレイマンはどんどん勉強に背を向けてしまう。他の先生に比べて、生徒の身になってしまうのはフランソワの長所でもあるけど、弱点でもあります。 授業中に生徒が絶えず飛ばしてくる横槍や言いがかりに彼はいちいち反応する。もうちょっと無視しないと、先に進めないじゃない!と見ててイライラするほど。

私には反抗期をやっと過ぎた息子と、それが始まったばかりの娘(映画の子供たちと同じ学年です)がいますが、勉強したくないときさせようとすると、このクラスと一緒。例えば息子と日本語の宿題をやろうとすると、ひとつ問題をやるごとに、日本語の文法の不明瞭さや例外の多さを突いてきて、そんなことに一々答えていたら1時間なんかあっという間。しかも彼らは大人の言葉尻を捉えたり、屁理屈が上手いので、まともに応対しているとカッとなるのはこっちのほうで、カッとなったらこっちの負けです。フランソワが思わず「ペタス!(売女)」と言ってしまい、子供たちに1点取らせる結果になる道程がすごくよくわかります。

反抗期の子供(しかも自分の)が一人いたってシンドイのに、勉強したくない反抗期の子供が束になって向かってきたら・・・2度目にこの映画を観て「重い」と感じたのは、スレイマンのような子が多い実情と、それを前に無力に感じる先生たちの姿のせいです。

ところが、こっちがその重みに「もうダメ」と頭を抱えるとき、思いがけないセリフや努力や笑顔で、ふっと浮上させくれるのも子供たちです。ウエイのような子との出会い、頑なに心を閉じていたクンバの笑顔、先生がちゃんと綴じてくれた「自己紹介」の作文を嬉しそうに受け取る子供たち・・・最後のシーンで校庭から響いてくる歓声がその希望に繋いでいる気がしました。この世に子供がいる限り・・・


Entre les murs-パリ20区、僕たちのクラス
2008年 フランス作品
監督/ローラン・カンテ
脚本/ローラン・カンテ、フランソワ・べゴドー「教室へ」(早川書房)
出演/フランソワ・べゴドーと24人の生徒たち
* 日本での公開は、2010年6月12日(土)より岩波ホール他、ロードショー。
http://class.eiga.com/